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ねぎとろ丼

ねぎとろ丼

アリスが咲夜の姉という妄想

 ここは紅魔館。吸血鬼の姉妹に引き篭もり魔法使いや中華風な門番のいるところ。そして、メイド長が居るところ。
 そのメイド長が実は私の妹であると、最近知ったのである。
 私はアリス。アリス、マーガトロイド。人形を操る魔法使いである。言わずもがな、紅魔館とは無縁の者だ。
 だが数週間前、吸血鬼と本読み魔法使いがわざわざ私の家を訪れて私に言ったのである。
 私が瀟洒な従者、十六夜咲夜と血縁関係にあるということ。そして私が姉で、彼女が妹であるということを。
 私としては「ふーん、それで?」としかそのときは返さなかった。
 混乱していたのもあるし、それで何かが変わるという程でもないと思ったから。
 彼女の上司である吸血鬼もそれを言いに来ただけで、それ以上何も言わなかった。
 さすがにそれだけで話を終えるのもどうかと思い、咲夜のところへ来たというわけである。
「で、私の様子を見てきたというわけ?」
「ええ、まあそんなところね」
「なんていうか、ご苦労様?」
「うーん……私とあなたが姉妹だと宣言されても、どうしようもないというか……」
「……」
 私自身、小さい頃に妹が居たという記憶はない。彼女にもないそうだ。
 だからこれは吸血鬼が仕組んだ言葉遊びか、暇つぶしなのではとも考えた。
 ただそうだとしても吸血鬼は何が楽しいのかわからない。利点もないだろうに。
「とりあえず、お茶でも淹れようかしら? 立ち話もあれでしょうし」
 客間に呼ばれ、椅子を勧められたので誘われるがままお茶会へ。
 そして彼女に椅子を押してもらったところで、彼女の姿勢が大きく崩れた。
 音を立てて倒れた彼女は、どこか顔色が悪そうであった。
「ちょ、ちょっと咲夜! 大丈夫?」
「へ、平気よ……。ちょっと疲れてるだけみたいだから、少し休めば……うぅ!」
 気丈にも立ち上がろうとする咲夜だが、足取りは危うい。彼女の肩を担ぎ、ソファーへ運んだ。
「わ、悪いわね。折角来てもらって……」
「いいのよ、これぐらい。そこらの妖精メイドに、水でも持ってきてもらうわね」
「あ、待って……!」
「なあに? どうしたの?」
「その……傍に居て欲しい」
「……いいわよ」
 彼女が強請るので、誰かを呼ばずに私が介抱する。
 細くて綺麗な彼女の手を軽く握ると、咲夜は微笑んだ。
 彼女が求め、私の髪に触れた。私も無性に嬉しくなり、頬が自然と持ち上がった。
「ねえアリス。私達は髪の色は違う。おまけに種族も全然違う。そうでしょう?」
「ええ、そうね」
「目の色も違う。くせも違う。名前や苗字が全然違うのはともかく、全く別々の人生を歩んできたはずよ」
「そうね。私達が姉妹であるなんて、信じられない話だわ」
「だけど……今あなたが私の手を握り、傍に居てくれると……なんだか、凄く懐かしく感じる。安心できる。なんだか、ほっとしちゃう」
「私もよ、咲夜。今の弱々しいあなたを見ていると、なんだか守ってあげたくなる。もっと、一緒に居たいと思ってる」
 私は咲夜の細い体を抱きしめた。メイドの仕事で酷使されている、体を。
 お疲れ様、がんばってるのね、と呟くと彼女は堰を切ったようにように泣き出した。
 彼女はただ、私を強く抱きしめてすすり泣く。
 彼女はどうして泣いているのだろう。私が本当の家族だと思って、心温かくなるものを感じているのだろうか。
 私もそうだった。
 彼女は常日ごろから誰かに使われている人間というだけでなく、常に完璧さを求められているような人物だ。
 きっと誰かに甘えたりして、ストレスを発散したりはしていないのだろう。
 もしそうだというのなら、私に甘えて欲しい。私が苦労するようなことでも喜んでしてもいい。
 それで、彼女が幸せになれるのなら。

 その日の晩。私は家へ帰ることにした。仮に私と咲夜が姉妹であっても、彼女には仕事があるのだから。
 でも彼女が仕事を逃げ出すというのなら、是非私の家に来てくれて構わない。むしろそうして欲しい。
「ありがとうね、アリス。そっちから来てもらったのに、色々迷惑かけちゃって、その……」
「いいのよ。これぐらい」
「……」
「じゃあ、帰るわね」
「ええ、気をつけて」
 紅魔館を出て行こうとして、私は振り返ってこう言った。
「またね。私の、可愛い妹さん」
「え、ええ! 今度、私の方からそっちへ行くわ……。姉さん」
 今夜は綺麗な星空。今日はぐっすり眠れそうだ。
 なんたって、嬉しい出来事があったのだから。私に、妹が出来たのだから。
 いい夢が見られるに決まっている。そう、幸せだった子供の頃の夢を。

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